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ぼくは真理のなか/押見修造(全9巻)

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この漫画の概要・オススメポイント

夢をもって大学に入学したけど、うまく自分の居場所を作れなかった主人公の唯一の楽しみはコンビニで見かける女子高生の後をこっそりと見守ること。
その日もいつもの通り、憧れの女の子の後を見守っていたら、その子に気付かれ・・・
気づいた時は、憧れの女の子になっていた、という、よくある感じの奇妙なお話の結末は?

私的感想

どうにもダメなクズ男が主人公・・・です(それ以上いうとネタバレになるので、そちらについては後述とします)。

最後まで読まずに、生理的に受け付けない!男の醜い欲望に嫌悪感しかない、といった酷評も多いですが、最後まで読むと、キモ男に見えた主人公も普通に頑張って生きてる男だということも分かりますし、真理の中にいたのが誰なのか分かると、パズルのピースがはまった時のような気持ちよさがあります。しかし、最初の方は、主人公とまわりの関係を描画や、混乱した主人公の描画の部分が長く、テンポのよい作品ではないため、そのあたりが中だるみみたいな感じもしなくもありません。

男と女が入れ替わるという話はいろいろあり、どれも非現実な話だったりするのですが、本作はそのどれともちょっと違います。読後は、非現実にみえるこういう出来事はあるのかもしれない、と思ってしまう事でしょう。主人公の気持ち悪さは、真理の絶望の現れだったりするんじゃないのかな。実際の小森は、単に引きこもりなだけでそこまでヤバい存在ではないと思います(詳しくは後述)

主人公の男の気持ち悪さだけで、嫌悪感をもつのは勿体ない作品。その気持ち悪さも理由があったりするのですが・・・、どうしても好みは分かれるかもしれませんね。個人的には押見先生の作品の中では、1,2を争う傑作だと思います。

若干のネタバレ

まずは、キモオタといわれるニート男である主人公の小森。とにかく気持ち悪いと、本作を敬遠する人も少なくないようですが、ちょっとしたキッカケを失って自分の居場所を作れなくなるなんて男女問わずにありうる話だと思っています。ちゃんと友達も作れて、普通に社会生活を営めている人であっても、本当は友達と合ってないんじゃないかと疑問をいだきつつも、波風を立てないように、大した面白くない話に頷いて笑って、歩調を合わせてる・・・そんな人も少なくないと思います。

本作の真理もそういう一人。なんとなくクラスの中心にいる友達と仲良くしてるものの、自分の居場所が見つからない・・・そんな女の子の道と、落ちこぼれ男の小森が交わります。

いつものようにコンビニから帰る時、振り返って、後をつけてきた小森と目があう真理。朝、気づいたら、小森は真理に入れ替わっています。普通の入れ替わりの話であれば、小森の体の中には真理がいないと成立しない・・・。でも、小森はいつも通り引きこもりでクズな生活を続けており・・

パラレルワールドなのかな?」

と、思いましたが、読み進めていくとそうでもなく・・・。

話は、先に書いたように、小森の混乱と周りの人との関係性を長々と描画しており、その辺りはちょっと中だるみな感じもしますが、少しずつ、真相に近づいていきます。小森だけでなく、真理も居場所がなかった。その真理が逃避した先が、社会と隔離されたところで孤独に生きている小森の生き方だったというのは、なんとも言えない選択だったと思います。

一方は可愛くてチヤホヤされてる女子高生、もう一人は生きる希望もなく怠惰に生きてる大学生。

普通なら交らない二人。ましてや、そんな女子高生が、ダメ男の生き方に憧れるはずは無いのだけど・・・。おそらく、真理の中の絶望を具現化すると、小森のような気持ちの悪い存在になっていくのだと思う。だから、真理の中にいた小森は、本当の小森よりも明らかに気持ち悪く、真理を神聖化して辻褄を合わせていたりする。

 

決定的なネタバレを書きますと・・・・

 

真理の中にいた小森は、真理の現実逃避が生んだ架空の小森でした。真理の視点を通じて生み出された小森は最低な男。自分がその最低な男に支配されるという屈折した精神状態。その精神状態を生んでしまった母親の抑圧。この本の主人公は一貫して真理。気持ち悪い言動もすべて真理の中の別の人格が引き起こした話だったりします。

そんな彼らも、最後は自分をとりもどすことができます。母親は家族の在り方を見直す事ができ、真理も自分にあった友達と学校生活を過ごすことができ、本物の小森も自分なりの方法で社会とかかわっていけるようになります。

最後が無事に終われてホントよかった。この手の作品は、誰も救われなかったりすることが多いですが、そうならなかっただけで真理が生み出した気持ちの悪い男の話が救われたような気がします。

パッと見、気持ち悪い・・・で本書を毛嫌いする人が多いのも分かります。でも、自分にとっては、ツボにはまる作品でした。