完結漫画ブログ

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刻々/堀尾省太(全8巻)

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この漫画の概要・オススメポイント

マンガ大賞2011ノミネート作品だったり、水木先生や小説家の伊坂幸太郎先生が絶賛したとかで評価の高い本作。

家族が誘拐された佑河家が、家に伝わる止界術を使って「止界」という時間の流れがとまった世界で家族を助けに行く、という話。

絵も渋いし、派手な必殺技も出てこない。セクシーなヒロインも出てこないし主人公は基本的に老人だし。いろいろ設定が分かりにくい・・・設定が複雑なわりに話の幅が狭い(それは良い事でもあるけど)、敵役の発想が単純すぎる(単純化することも悪い事ではないけども)、そもそも良く分からん・・・などなど批判も多くあり、好き好き分かれる作品かもしれません。

全体的に鬱々とした空気感が漂っていますので、あまりに期待しすぎる反発をおぼえるかもしれません。
でも、個人的には他のマンガには無い鬱々とした空気感も含めて強くオススメしたい・・・そんな作品です。

どんな時に読みたい?

漫画喫茶で半日程度、読みたい本を探している時。

ありきたりの漫画に飽きてきて、ちょっと変わったものを読みたい時。

サブカル系の文化が好きな方。逆にメジャー作品の方に馴染みが強い人・・・「勇気・友情・なんとか!」な漫画ばかり手を出してる人には不向きかと・・・

私的感想

堀尾省太先生のデビュー作でアニメ化もされた本作。絵も話も世界観も独特の雰囲気で、特にこの絵が苦手…という人も少なくないみたいですが、その独特の世界観は多くの人に支持されているようです。。

最初に書いたように物語は、・・・誘拐された家族を助けるために、佑河家に代々伝わるという「止界術」を使って、時間が止まった世界「止界」に入った佑河一家が敵に遭遇する・・・という感じの話です。
といっても、いろいろ予想外のトラブルが発生し、『敵を倒して甥っ子を助ければ終わり!』と、いう単純な話じゃすまなくなっていきます(本人たちは、誘拐犯から甥を取り返して元の世界に戻りたいだけの話なんですけどね)

まぁ、話を突き詰めてしまえば、止界に入って出てくるだけの話ですので、『ぐるぐるまわって結局また戻ってきた』感もあります(その途中は盛り沢山なんですけど)。

私の最初の読後の感想は「面白かったけど不思議なマンガだったなぁ」てものでした。一度目は最初の頃の伏線とか覚えきれず、モヤモヤしたのですが、二度目は「なるほど」と。
でも、二度目は最初のドキドキ感が減っちゃって、別の意味でモヤモヤ(笑)

いろいろネガティブ要素も挙げましたが、登場人物の描き方は秀逸。「止界」という謎の世界を模索しながら試行錯誤し、とにかく巻き込まれた事件から平穏な世界に戻ろうとする家族。そして、宗教をどっぷりと浸かってる信者、自分の目的のために止界にやってきた人などそれぞれの思惑を幾重にも丁寧に絡めて積み重ねることによって、説得力のある物語が進んでいきます。

独特の世界の設定を小出しにしたり、やたら説明じみてしまったりするわりに、テンポは良く、8巻というキリのよい巻数でまとまっています。
ちょっと似たような漫画を挙げるのは難しいかもしれませんね。こういうのもありだなーと手を出してみるのもいいかもしれません。

以下、講談社のサイトで、お試しが読めます

kc.kodansha.co.jp

若干のネタバレ

もし、時間を止めて自由に世界をいじれたら・・・私欲のため、もしくは世界平和のためにチカラを使おうとするのが、普通の人だと思います。
本作の敵である「真純実愛会」の教祖佐河順治みたいに、永遠の真理を探究しようとするケースもあるかもしれない。

その中で、佑河家のじーさんのように、チカラがあっても使わない(使えない)というのは、なかなか感慨深いですが、身内が事件に巻き込まれ、時間を止めでもしないと助けられない状態では別・・・そこから時間の止まった世界での戦いが繰り広げられます。

時間を止めた止界の戦いで、佑河家の面々は新しい能力に目覚めます。その説明だけだと、ジョジョの〇妙な冒険のスタンドみたいな?と思うかもしれませんが、本作の能力それに比べるとあまりに地味。佑河家と宗教団体の戦いのなかで、佑河家はちょっとした能力が使えますが、それ以外は普通の人なので戦いに慣れてるわけでもなく。 その能力も地味で・・・じーさんは止界内を10メートル前後ほど瞬間移動する微妙な能力(自分の思うようにコントロールできない)。そのうち長女が止界内にいる人間を止界から追い出せる能力を身につけますが、ス〇ンドだったりスーパー〇イヤ人の能力に比べるとあまりに微妙。それでも長女の能力は物語の鍵になるほどの重要な能力で・・・これが使えるようになって話の幅が一気に広がります。

その後、宗教団体の教祖佐河との闘いがあり、弱り切った佐河が『あるもの』になるあたりは・・・それはずるいなぁ、という感じがしなくもなかったのですが、その後で、長女と佐河だったものとの関係性が話の流れ的には必要なものだったと分かり・・・出来すぎてる感も無くはないですが、気持ちよく読めました(一点、しこりに残ってるのは『止界の成立過程』。まぁ・・・そこにあるって事なんでしょうかね)。

最終話で、長女が部屋で横になっている1コマは、物語のはじまりの光景に重なってみえるのですが、佑河家にあの石はもう無くても彼らの成長がみえたのが何よりでした。