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アンゴルモア 元寇合戦記/たかぎ七彦(全10巻)

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この漫画のオススメポイント

 

蒙古襲来という、あまり馴染みのない歴史・・・さらに対馬という小さな島での戦いを扱った意欲作。

政治抗争で罪人とされた鎌倉武士の朽井迅三郎が圧倒的な兵力をもつモンゴル軍と合間見える歴史ロマン。圧倒的物量に対して寄せ集めの寡兵をもって粘り続ける彼らは生き延びる事ができるのでしょうか。

 

私的感想

鎌倉幕府衰退の原因ともなった二度の蒙古襲来のメインの戦いは九州の地で行われますが、本書で描かれるのはその序盤戦。小さな対馬に圧倒的な蒙古軍が攻め込んでくるところが描かれます。勝てるわけないです。ただ、小さな島が戦場ですので、大軍が展開できない・・・そこに一縷の望みを見出すしか無いのですが・・・。

本作では、主人公朽井迅三郎をはじめとし数人の男たちがて罪人として対馬に流されたところから始まります。そこで、強大なモンゴル帝国が攻め込んでくるということが分かります。後世に生きる私たちは、それが元寇という戦いで神風が吹いて日本が助かることを知っていますが、その前哨戦である対馬での戦いはあまりよく知りません。全10巻で、いわゆる神風までは辿り着けないだろうし、どうするんだろ…と思いながら読んでましたが、案の定、キリのよいところで上手くまとめてくれてますので安心して読めるかと思います(この後、九州編が続くとか続かないとか…)

作者自身が歴史への造詣が深い方なので、エンターテインメントとしての歴史の面白さと史実に忠実であろうとする部分のバランスを凄く悩まれていたようですが、対馬という小さな島での戦いの見どころが凝縮されて描かれています。圧倒的なモンゴル軍に対して出来る事といえばゲリラ戦。しかも女子供や傷病者を守りながらの戦いですから、普通なら一方的に蹂躙されて終わるはずなのです。

ただ、ある男との約束で、1週間持ちこたえれば本国から援軍が送られることになっており、何とかその1週間を持ちこたえようとするところが当面の課題なのですが…さて、援軍は間に合うのでしょうか。

若干、主人公が強すぎるけらいはありますが、圧倒的なモンゴル軍の前ではそれぐらいのハンデも容認されてよいかと。話の流れはバランスも良くあっという間に引き込まれる歴史ロマンに仕上がっていると思います。若干、伏線が回収されてないところもありますが(主人公と同じ義経流を使う相手があまり出てこなかったとか)、それは、対馬編が終わった後の九州編で描かれるのかもしれません。

過去になかった蒙古襲来という題材をモチーフにした意欲作。歴史好きには思わずニヤリとするシーンがいっぱいだと思います。軽い気持ちで手にとったら、あっという間に引き込まれる事、請け合いです。

 

www.kadokawa.co.jp

若干の…ネタバレ

最初、手にとった時、絵が好みでした。それは凄く大事な要素で・・・絵が苦手だとどんなに良作であっても読み続けるのが酷だったりしますから(時々、動きが不自然に感じる時があったりしますが、基本的に戦闘シーンはやりすぎなぐらい激しいです)。

数ページ読み進めて、『元寇』という扱いにくいテーマにグイグイと引き込まれていきました。『元寇』といえば・・・アジアの大半からヨーロッパまで支配したモンゴル帝国が日本を攻めたけど神風(台風)で助かったけど褒賞をはらえず鎌倉幕府への不満が出た・・・なんて教科書的な知識や、源義経が殺されず北海道からモンゴルにわたりジンギスカンとなったなんて義経伝説なんてのを多くの人が知っていると思います。ですが、新選組みたいな目立ったキャラがいるわけでもなく、舞台も九州でなく対馬。こんな難しい設定でどうやって話が広がっていくんだろう、と思っていたのですが、これが実にうまい。どう考えても、圧倒的な物量で飲み込まれてもおかしくないはずの物量の差が、この小さな島が舞台になってくると話が少し変わってきます。

つまり、モンゴル軍は圧倒的な戦力を擁しているものの、対馬が小さすぎて効果的な戦闘ができず、何とか対馬側にも戦闘が成立する余地が生まれるのです。この微妙なバランスが実にいい。さらに、モンゴル側も、高麗(朝鮮)、漢民族などの被支配民族を含むため、それらの思惑は一枚岩ではなく、そのあたりがこのストーリーに重厚さを与えています。

とはいえ、いくら奇計を用いても兵力の差はいかんともしがたく。朽井たちがモンゴル軍に挑む様は、蟻が象に立ち向かう以上の無謀な戦いでした。それでも、援軍が送られる約束があったからこそ戦えるわけです。このあたり、先がある程度よめていたのですが、実際は・・・その援軍がゴニョゴニョと・・・

次々に主要キャラが命を落としていく凄惨な戦いを乗り越えようとする彼らの奮闘ぶりには胸が熱くなること請け合いです。何とかして活路を見出してほしい、そう強く願いながら読み進めていくのですが・・・

余談ですが、姫のツンデレは狙いすぎ。でも、そのツンデレは、この凄惨な戦いの中では大事な要素だったと思います。圧倒的な敵を前にして、少しでも島民たちが逃げ延びられるようにと願う姫の悲痛な叫びはどういう決着をむかえるのでしょうか。

思いがけず当たりの作品に出会えた感じです。いろいろ回収しきれなかった伏線を、九州編で上手く回収してくれることを楽しみにしています。