完結漫画ブログ

完結漫画に特化したブログです。マンガ喫茶のお供にお役立てください

海賊とよばれた男 / 須本 壮一(原作:百田 尚樹) 全10巻

f:id:totaraka:20180906162637j:plain

この漫画の概要・オススメポイント

映画化もされている百田尚樹氏が原作の本作。出光興産の創業者の出光佐三氏がモデルとなった作品です。

戦後、がれきの山となり明日もどうなるか分からなくなった日本で、多くの国民が途方に暮れ失意に包まれている時に、店員の前で毅然と話をする男・・・国岡商会の店主、国岡鐡造が主人公。日本の復興に向かって闘うと鐡造と仲間たちの熱い話。

実際にあった事件等を題材にしているためリアリティが半端なく、また、戦後の日本を立て直す!という強い熱意、男たちの熱いロマンにドキドキしながら、彼という人間を作ったその背景とその視線の先を是非みとどけてください。

 

私的感想

原作も映画も有名な本作ですが、漫画も漫画ならではの表現が熱い作品です。戦後の日本を作った男たちの心意気が痛いほど伝わってきます。

海賊、と呼ばれた国岡鐡造ですが大柄の偉丈夫ではなく、むしろ幼少期は病弱な男だったようなのですが、権力の横暴や曲がった事に立ち向かう強さをもった男です。戦後、日本を立て直すために有名無名を問わず多くの経営者が日本を支えたわけですが、もし戦後の経営者を3人挙げるとしたら、松下幸之助本田宗一郎に並び、本作のモデルになった出光佐三が挙げられると思います。

いつの時代も、業界の仕来りというのは根強く、その業界でやっていくには足並みをそろえる事が求められますが、彼は、何より消費者が望むものを考えます。そのための労力を惜しまず、仲間たちを信じ、熟考した知恵を武器に強大な同業者と戦ってでもその信念を貫いていきます。そのための努力、姿勢から多く学ぶことがあると思います。

ただ、本作を、『この作品は愛国ポルノ! 主人公のモデルは皇国史観丸出し』として嫌悪する動きもあるのは確かです。また、原作の百田尚樹氏には右派のイメージが強く、そのためか彼の作品を読まず嫌いな人も少なくないかもしれません。

また、どんな偉人であれ経営者であれ、称賛される面もあればそうでない面もあります。出光の思想は危険という見方もあると思います(ドラマがどこに光をあてるかは作者の裁量で許されるものだと思いますが、このあたり長くなりそうなのでネタバレに・・・)

lite-ra.com

このようにモデルになった出光佐三氏にも賛否両論ありますし、好き嫌いは分かれるかもしれません。読まず嫌いは勿体ないと思うのですが、強い信念を持ちすぎてる人には不向きかもしれません。

ちょっと美辞麗句で飾り立てた感も無くもないですが・・・『男なら、こういう風に生きてみたい』、と思わせてくれる本作、作品の内容より作者の言動や別の面で批評される事が多いみたいですが、それでも、あえてオススメしたい。国岡鐡造たち男の生き様から得る事は少なくないと思います。

kc.kodansha.co.jp

若干のネタバレ

百田尚樹氏がバリバリのタカ派のイメージが強く、それで彼の作品を毛嫌いする人も少なくないと聞きます。

私個人は基本的に極端な思想が苦手で、右でも左でも無いのですが、原作者の思想に同調できないからと作品まで貶めるのは違うと思っています(次元が違うと言われそうですが、愛国右翼といわれた三島由紀夫の思想に同調できなくとも、作品は切り離して評価したとして何ら問題は無いと思っています)。

それを踏まえて本作。

先に書いたように、昭和の時代を生き抜いた実在の男をモデルにしてるため、どうしても出光氏の思想が透けて見えるかもしれません。出光といえば、前近代的な社風・・・定年なし、タイムカードなし(残業手当なし)、労働組合なしといったブラック企業のイメージをもっている人もいるかもしれません。
toyokeizai.net

そんな出光氏の生きざまの中から良い面だけを集めて感動ドラマに仕上げている、という批判を多く見かけるのですが、それはフィクションであれば別におかしな事ではないと思います。確かに、主人公の国岡が偏った思想を表に出したり間違った事をしたりした方が人間味が出るというかドラマが深くなるようにも思いますが、主人公の一挙手一投足、良いこと悪いこと全てを描く事はできないでしょう。とはいえ、過ちをおかしたり間違った言動があればもっと人間臭さが出るようにも思います。

しかし、本作の男たちは、自分の信念に対しまっすぐ生きてます。そういう姿勢の連続で、息が詰まる感じがするかもしれません。・・・ですが、だからこそストーリーは熱く、そして勢いがあるのでテンポよく読めると思います。

日本が苦しんだ時代に彼らのような男たちが道を切り開いて経済の発展に貢献したのは間違いないと思います。

思想信条の違いはあったとしても、読んで得られることが多い作品ではないでしょうか(思想信条って・・・難しいなぁ)