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VANILLA FICTION/大須賀めぐみ(全8巻)

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この漫画の概要・オススメポイント

ゲッサンの紹介がジャストだったので、そのまま引用

どう考えても――――バッドエンドにしか、ならない。
悲観的な妬み屋を自称する男が直面した、質の悪い冗談みたいな―――――現実。
そしてその瞬間から、雪崩を打つかのように激変する日常。
相次ぐ絶望の、その先にあるのはやはり―――――悲劇的な結末なのか!?
ゲッサンが誇るサスペンステラーが激しく挑む、初オリジナル作品!!

作者は、伊坂幸太郎氏の小説『魔王』のコミカライズがデビューとなった大須賀めぐみ先生。初のオリジナル作品の行く末は?!

 

私的感想

バッドエンドしか描けない小説家の佐藤忍は、いつもバッドエンドになる自分の作風に対して煮詰まっていた。そんな中、感情を失くし、笑いも泣きもしなくなった少女・・・牧野エリをめぐるトラブルに巻き込まれてしまいます。一歩まちがえれば命を失いかねない危機的な状況の中、相手にネガティブな話を想像し、そのとおりに相手を誘導し危機を脱したのですが・・・その結果、彼は「双六ゲーム」の参加者にさせられてしまいます。

このゲームでは、ある場所にエリを連れて行き一緒にクッキーをたべればクリア、というだけのものでした。ただ単に、少女を目的の場所に連れて行けばいいだけでなく、同じようなミッションを与えられた相手チームとのエリの奪い合いのバトルに巻き込まれるハメに。しかも、この相手が佐藤に比べて圧倒的に強い(国家権力だし)。

その相手チームにだって家庭があり生活があり、愛する人がいたりして・・・そういう人間関係を考えると、単純に主人公側を応援する事もできず・・・どちらが正しいといった勧善懲悪では片付かない対立が実に見事で、読み手も主人公とともに悩まされていきます。

そんな争いや逃避を経ていくなかで、佐藤とエリの信頼関係が次第に深まっていきます。子供たちの親として、未熟な彼らが親として選ぶ最後の選択はなかなか見どころあるはず!

さてさて、バッドエンドしか描けない小説家の描くこの物語の終わりがどうなるか?・・・一見の価値があるかと思いますが、いかがでしょうか。

gekkansunday.net

csbs.shogakukan.co.jp

若干のネタバレ

主人公の佐藤忍は、ネガティブな発想はピカイチなものの、それ以外は人間的にもかなりダメな男です。目まぐるしく変動する状況の中、ネガティブな発想で幾つものトラブルを切り抜けますが、根本的に主人公としての魅力に欠けています。

一方で、太宰治と名付けられた本ゲームの進行役。まるで人形のような立場にある彼は、このゲームが終わったら(おそらく)消える運命にあり、自分はどのみち無くなる存在・・・と生を諦め、ただただ楽しく生きるために享楽的な態度をとり続けますが、この頭のおかしい太宰の方が主人公よりも魅力的だったり。

さらに、相手チームの鞠山雪彦という警察官。警察官のくせに何よりケンカが好きという破天荒な男(一生ケンカをするために警官になったと豪語している)。そんな鞠山が、大事にしているのがたった一人の息子である駑螺滋恵(ドラジェ)。別れた妻から押し付けられたドラジェが、いつしか鞠山の掛け替えのない存在となり・・・ドラジェを守るためにも鞠山は、この勝負に絶対負けられないと佐藤を追い詰める。彼の強い信念に、次第に劣勢を強いられる佐藤。

ところが、ネガティブな発想しか取り柄のないダメ主人公が次第に、強い意思をみせはじめます。圧倒的な暴力の塊である鞠山に打ちのめされても、ドラジェの存在を知りつつも、全員が助かる道を探すという強い意思を。周囲に関心を持っていなかった佐藤が、「大切な人すべてが助かる道をホンキで模索してみせる」という強い意思。

だからといって、確実性を伴わない提案には乗ってこない鞠山。しかし、鞠山の方にもありえないトラブルが発生し・・・ドラジェに〇〇が渡され・・・怒涛の展開の後半戦に突入します。

後半戦、勢いもあっていいのですが、ゲームに介入してきたキャラが強く、話がかき回された感じがしました。特に、その人が干渉する動機や、その人への交渉条件や、双六ゲームのルールにそぐわない選択とかとか、いろいろ納得できなくて、悶々とすることも多々ありました。

それでも、ラストでの二人の親としての選択は見事。子供が彼らを親にしてくれたからこそ、この選択を選べたんだな、と。このゲームの解決策としての是非が分かれるところかもしれませんが、ラストの選択に作者の色がきちんと反映されていてよかったです。