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累(かさね)/松浦だるま(全14巻)

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この漫画の概要・オススメポイント

幸せと苦しみが、たかだか表皮一枚の造形で分け隔てられる事実に苦しめられる登場人物たちの、心の闇が織りなす怨念ともいえるどろどろした感情に救いはあるのか!

容姿の美醜に対する人の悪意というデリケートなテーマに、ごまかさずに向き合った問題作に、ぜひ圧倒されてください

 

私的感想

土屋太鳳×芳根京子のダブル主演で映画化ということで盛り上がってる本作。前から1~2巻は読んでたのですけど、ようやく完結したので全巻よむことができました。

kasane-movie.jp

本作では人間の醜さや嫌らしさがこれでもか!と表現されており、綺麗事では片付かない人間の本性が繰り広げるドラマは、個人的にはとてもツボでした。(人によってはこのどんよりした苦しみの連鎖に嫌悪感を示すかもしれません)

形見の口紅を使って得られた万能感と、元の醜悪な顔が抱える劣等感の極端な対比・・・そして、累に向けられる強い悪意。こんな感情は、フィクションじゃなければ到底うけとめることのできないものです。これらの悪意が息つく暇なく読み手に迫ってきます。

伝説の女優と呼ばれた故人『淵 透世』の娘『累(かさね)』は、母に似ず醜い顔で周囲から虐げられてました。小学校の学芸会で、主役に推された累は、それが陰湿なイジメと知りつつも透世の娘であることを証明しようと一生懸命に役作りをするのですが誰にも届かない。どんなに頑張っても超えられない悪意の前に絶望した時に、生前の母の言葉を思い出し、形見の口紅を使ってイジメ首謀者イチカの唇を奪う。その口紅は口付けた相手の顔を奪う事のできるチカラをもっていた…。というのが話の導入部。

累が誰かの顔を奪って女優になるには、顔を奪われていいという女性が現れる必要がありました。口紅のチカラを使いあぐねていた累が18歳の時、母の法事の席に、生前の母の協力者という羽生田 釿互が現れます。羽生田は口紅の秘密を知っており、生前の母に「娘を奈落の底から白い照明の下へ導いて・・・」と頼まれていました。そして、彼に会ってから累の女優としての道が広がっていきます。生まれつきの病気もあり役者として大成できていない美しい女性・・・ニナの協力を得、女優の道を突き進んでいくのですが、次第にその協力関係も歪み・・・

ちなみに、映画で描かれるのはこのあたりまで。なので、続編とかもあるかもしれませんね。

ニナとの関係、そして累とは全く似ていない美しい姉の存在(彼女の抱える業も累に負けず深い)、彼女たちの相いれない思惑は次第に激化し・・・
外見が綺麗な人と醜い人・・・同じ人間なんだから心が綺麗なら・・・なんて綺麗事で済まされない現実を直視した本作。累たちの壮絶な心の叫びに向き合ってほしいと思います。

evening.moae.jp

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若干のネタバレ

外見さえ人並みであれば!累の受けた侮蔑、彼女が抱える劣等感に対する慟哭が痛いほど心に突き刺さる本作。

累が化け物だとすれば、その化け物を生み出したのは、美醜に対する社会的価値観でした。幼少の頃から、散々、気持ち悪いと罵られて、まともな心が育つわけがないです。それでも、累は直向きに頑張ります。それでも、社会は冷酷でした。なかには理解してくれる人もいたのですが、その人の理解すら累の自尊心を傷つけるに十分な対応だったりします。

母の形見の口紅で、顔を奪い取ることができる、といった非現実的な小道具が出てくるものの、それ以外の人の感情の揺れ動き、描き方は本当に見事です。また、ありえないチカラをもった口紅のうまれた経緯・・・そこにある歪んだ愛の想いの強さ、母と、母に顔を与えた女性の絆と・・・いろいろな伏線が綺麗に繋がって、互いの憎しみも昇華し、醜い顔で戦う希望がみえていた時に、思いがけない方向から彼女は希望を奪われます。それは、死より苦しい裁き。未来を失い、自分をも奪われた累の魂が強く色褪せずにありつづけた事が唯一の救いとはいえ、哀しすぎる終わり方でした。

ラストでは、後ろ姿の男が古い家にたどり着くところで終わっています。おそらく、後ろ姿の男は、累を失って狂気にかられた羽生田。そして、たどり着いた家は、世から離されて孤独の中いきている累の住む家だと思います。その二人が出会った後どうなるのか、作者は描きませんでした。

 

個人的には・・・野菊が最後に願ったように、彼女らがまた舞台に立とうとする気がしてなりません。強い衝撃と、哀しい終わりと、深い余韻を残してくれた本作、出会うことができて良かったと思っています。