完結漫画ブログ

完結漫画に特化したブログです。マンガ喫茶のお供にお役立てください

自殺島(全17巻)/森恒二

f:id:totaraka:20191008092044j:plain

 

この漫画のオススメポイント

社会のはみ出し者たちが送り込まれた先は、治外法権自殺島。そこでは、人は、自分の欲に従って生きる者と、僅かな理性を保ち協力し社会的な営みをしようとする人に大別される。限界の環境の島において、彼らは何をみつけ、どうやって生きる道をみつけていくのか・・・

私的感想

若干、綺麗事が多い感じもします。が、人の醜さもきちんと描かれているので、本能的に好き勝手に生きる人間も当然描かれています。おそらく、こういうところでは、圧倒的に暴力や宗教が強いと思います。弱い人が団結して社会を作り、お互いの欠点を補い、長所を伸ばしていけるのは、社会が法の下に制約を受けているときであって、無法地帯では、暴力や宗教が幅を利かせ、社会性は著しく低下していくものだと思います。そういう意味では本作も多分に漏れず。

主人公セイの周りには、何とか集団を保とうとする勢力が集まっていますが、圧倒的な暴力で立ち向かってくる輩には手をやいています。とはいえ、まず何より必要なのが食料。セイは先輩から昔おそわった知識で弓矢をつくり、山に入り、鹿をしとめます。そして、命の大切さ、自然の強さ・・・言葉にすると陳腐な感じですが、彼はそれで生きることを考え始めます。都会にいるときは、自殺未遂を繰り返し生きる意義を見失っていた彼が得た強さ。

その強さの扱いに自身も周囲も戸惑いながら、対立は深まっていきます。

人間の生きる意味を考えさせてくれる一冊です。

作者の森先生は自身でサバイバルを体験されながら、その経験に基づいて本作を描かれたそうです。その知識を知っておくだけでも本作を読む価値はあると思います。いつなんどき、僕らも文明社会から切り離されるかわかりませんからね。

17巻とちょっと長めな感じもしますが、面白くて時間を忘れて読み切れると思いますよ。まだ、映画化されていませんが、映画化されてもおかしくない作品だと思いますね。

https://www.hakusensha-e.net/store/group/jisatu

↑↑白泉社の公式サイトで試し読みができます ↑↑

 

 

若干の…ネタバレ

この本には、実際にあってもおかしくないリアリティがあります。

生きるのを諦めて自殺を繰り返す若者、社会に迷惑をかけ続ける不適合者たち・・・社会や保護者はいつまでも彼らを守れるかといえば、このまま世の中が衰退していけば、いつかはそのチカラを失ってしまうことでしょう。過去に姥捨て山という場所があったように、この自殺島がつくられる可能性もゼロでは無い。そんなリアリティをもって、本作は描かれています。

こういう時、自分ならどう生きるだろう・・・食べ物を頑張って集めても、暴力で支配しようとする者たちにどう接すればいいんだろう、と思うと、正直、答えはみつかりません。現に、この本でも何人も暴力によって命を奪われていきます。そして、守るために戦い、相手を殺し、相手の憎しみが増し・・・と悪循環を繰り返します。それぞれの陣営の解釈があって、言い分があって、それは埋まることなく戦い、疲弊していきます。
主要なキャラも、脇役で名前も語られなかったようなキャラも次々に死んでいきます。自分がこういう場にいたら、最後まで生きられる、そんな希望なんてどこにもない。こういう場では人は簡単に死んでしまうのです。

さらに、人の心の闇につけこむ存在がこの社会にさらなる混沌を与えます。法に守られた社会でも暴力は規制されていますが、そういう闇につけこむ存在は確実にいますからね。こういう存在がいるのは下手なホラーよりも怖いです。

そんな社会を見せつけられると、
「あぁ、人間ってそういう生き物なんだな」
と、ある種の諦めみたいなものが生まれてしまいます。それでも、作者の森先生は希望を見出そうとします。希望を探そうとするチカラが強く1コマ1コマから伝わってきます。

もし、こういう極限状況に陥った時、人はどうなってしまうのか、その社会は成立しえるのか、救われるのか・・・一読の価値はあると思います(というか、読んで損はない・・・つうか、読むべき本の一冊かと思います)。