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四月は君の嘘/新川直司(全11巻)

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この漫画の概要・オススメポイント

母の死をきっかけにピアノを弾かなくなった、元・天才少年有馬公生。目標もなく過ごす彼の日常は、モノトーンのように色が無い‥‥。 だが友人の付き添いで行ったデートが、少年の暗い運命を変える。 性格最低、暴力上等、そして才能豊かなヴァイオリニスト‥‥少女・宮園かをりと出逢った日から、有馬公生の日常は色付き始める!!  青春を切り取る注目の作家・新川直司がおくる、切ない青春ラブストーリー(講談社のウェブサイトより)

よくある設定にも関わらず、これだけ多くの人に支持され、アニメ化・映画化と話題性の欠かない本作。 人との関わり、人の生き死に、普遍的なテーマを爽やかに鮮やかに描かれた登場人物たちの想いの強さに、是非ふれてみてください。

 

私的感想

絵は綺麗だし迫力もありますが、どこかで見たことのあるような設定です。 最初に読み終えた感想は、
「綺麗で爽やかな話だけど、結果も予想通りだしなぁ・・・」
と、いう感じでした。 ヒロインの振る舞いでラストの方向性も、ある程度みえてしまって少し興味が失せたというのもあったかもしれません。

また、ONE PEACEの尾田先生が
「締め切り前に気分転換のつもりで『四月の君の嘘』を読んだら全巻読んでしまい、自分の原稿を落とすところだった」
と、 TVでコメントして爆発的に騒がれたのですが、逆に冷めてしまって「そこまで騒ぐ作品なのかなぁ」と。

構成もテンポも良いし、キャラは生き生きしてるし、魅力的な構図のおかげでサクサク読めるのだけど、その分、軽い感じ読んでしまうと、私のように『よくある感じの作品』という感想になりかねません。

 感受性の強い若い子は、分かりやすいエピソードを素直に楽しめると思います。問題は、私のようにそうじゃない人、汚れちまった悲しみすら仕方ないと思ってる層は難しい。
そういう意味では、読み手を問う作品かもしれません。

けど、この作品の眩しさを素直に受け止めることができたら、心が少し軽くなるはず。

この作品の輝き・・・負けたくない相手がいる、応えたい仲間がいる、気づいてほしい人がいる・・・そんな若者の甘く切ない眩しい想いを、目を反らさずに感じ取ってほしいと思います(あまり褒めてない感じがあるかもしれませんが、ちゃんと向き合って読んでほしいと思う作品です)。

講談社のサイトで試し読みできます。

kc.kodansha.co.jp

若干のネタバレ

この感想を書くのに、3日かかりました。書いては消して悩み・・・。

いい作品であることは間違いない。けど、その良さって何だろう?と考えた時、言葉にならなかった。いろんな人が本作を讃えてる。爽やか!切ない!キュンとくる・・・でも、歳を重ねると、シンプルに感じることができなくなる。

あらためて読み直してみて、感受性の弱くなったオッサンでも気になった箇所を挙げてみる。主人公と幼馴染の関係、ライバルたちとの関係・・・そして、憧れの人のウソ・・・眩しいところはいくらでもある。けど、どうしてもスパイスが弱く、「イイ話ダナー」で片付きかねない。

そんななかで、影となりえるのが病弱な母と息子の関係。
まず、主人公の公生にがピアノを弾けなくなった理由である『母親の死』。
まだ小学生の公生がやりたい事も我慢して、ただただ母親に喜んでもらいたくて弾いた曲にダメだしされて、つい「お前なんて死んじゃえ」と悪態をついてしまう。しかし、その後、母の容体が悪化し帰らぬ人となってしまう。 小学生には半端ないトラウマになるのは想像に難くない。さらに、彼が生み出した母の幻影によって自身の音が聞こえなくなる。 母の幻影は言う。
「これは罰。私を私の夢拒絶した罰」
・・・と。

いくら物語とはいえ、未熟な子供に極端な英才教育を強いるのはどうなのかと思った。そんなことをしてまで、音楽の世界で生きなければいけないのか、と。
でも実際の母は、病弱な自分がいなくなった後、我が子が元気で生きていけるかを常に悩み、友人に、
「私の宝物は・・・幸せになれるかしら」
と、不安を打ち明ける。「とはいえ、やりすぎだ」という感想もちらほら見かけたけど、子供にうまく接する事のできない親なんて沢山いる。公生の母親は彼女なりのやり方で、公生のことを考えていた。そうやって、人は誰かに大事にされて生きているんだな、と思うと、胸が熱くなる。

そして、その音に触発されていろんな人の気持ちが繋がって・・・いろいろな経験を積んだ公生は、母の幻影を克服する。音が聞こえなくても、彼には母から刻まれた音があった。彼の周りの人から気付かされた音があった。 その音にたどり着くまでに、彼はいろんな人から様々な想いを受け取った。だから前を向ける。

芸術家でない普通のオッサンでも、誰かに大事にされることがどれだけ貴重なのかは知っている。生きるチカラは一人だけで生み出されるものじゃない。

哀しい終わりが来る前に、大事なものを見つめなおしていきたいものです。