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はちみつとクローバー/羽海野 チカ(全10巻)

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この漫画の概要・オススメポイント

貧乏芸大生の中に一人の天才少女が現れ、彼らが日々の大学生活の中でうまくいかない恋の苦しみにもがき続けながらも、彼らなりの答えを導き出す・・・ザ・モラトリアムな作品。

温かみ溢れる爽やかな作風の中に、学生の苦悩がいいバランスでアクセントとなる青春ドラマは、何か懐かしい痛みを刻み込んでくれることでしょう
※ただし、基本的に内向的な性分な登場人物が多く、人によってはそれがグダグダしてる風に感じられるかもしれません

私的感想

とても、温かい作品で描かれる個性的な登場人物。主人公の竹本君の純粋さ、ハグちゃんの可愛らしさの中に存在する芸術を愛する歪み、天才肌でパワフルな森田さんの闇、間宮のストーカー気質に、鉄人山田の幸せになれない片思い・・・。そんな彼らの素直でいい仲間関係とは裏腹に、うまくいかない恋愛の苦しみ。

主人公竹本君と、天才肌森田さんとヒロインはぐちゃんの三角関係と対比するかのように、真山、山田さん、リカさん(未亡人)の三角関係が描かれる。これら、二つの三角関係が軸になるが、基本的に爽やかに(ときどき棘のような痛みとともに)物語は進む(厳密に言うと、リカさんの学生時代の関係も三角関係であったように思う)。

この恋愛の苦しみに悩む彼らが愛おしく思えてしまうのは、青春の未熟さやいびつな関わりを丁寧なエピソードで重ねていった作者の愛情が垣間見れるからかと思います(作者の思い入れが強すぎて、ついていけない・・・という人も多いみたいですが、逆に強い支持もあるので、そのあたり好みが分かれるかもしれません)。

繊細すぎて、普通の人とちょっと(かなり?)ズレてて壊れそうな脆さがあるヒロインを襲った突然の悲劇にも負けずに強くしなやかに生きていこうとする彼女の姿勢・・・そんな彼女を救ってくれた人たちの優しさ、強い意思。一方で、うまくいかなかった恋愛でもその人の成長の糧となり大事な宝物にできるような、そんな恋愛をみつけた彼の思いが痛くて懐かしくて、胸アツでした。

sokuyomi.jp

否定的な感想でしたが、以下の感想は面白かったです。自分と違った視点でしたが、きちんと批判してる姿勢は好感がもてました。

d.hatena.ne.jp

 

 

若干のネタバレ

大好きな作品です。本ブログ50冊目の完結作品を書く上で、羽海野先生の作品にしようというのは決めてました(個人的には、三月のライオンも好きなのですが、まだ完結していなくて)。ただ、この作品の良さを言葉にするのが本当に難しくて・・・しかも読み返そうにも紙で買った本だったので気軽に手にとることができず(他の本はデジタルデータで購入しています)。

本作は、過去に友達のいなかった作者の「こうだったらよかった」という妄想から生まれたということですが、こんな強いキャラが集まることは非現実かもしれません。ただ、その妄想がとてもワクワクして心地よいのです。

とにかく登場人物のクセが強いのです。一番クセがないのが主人公の竹本君。次いで、ヒロインはぐちゃんの保護者の花本先生。それ以外は、強烈な個性が集まっています。突然大金を持って帰ってきたお調子者の森田さんは、突然いなくなったと思ったらハリウッドで映画を作ってたり。美脚美乳の空手入賞者の鉄人山田さん。そつなく仕事をこなしさっさと職を決めたストーカー真山。そして、小学生のような体形で臆病な性格を持ちながら新進芸術家と期待されている天才肌のヒロインはぐちゃん。

彼ら5人の大学生を中心に話は進んでいきます。花本先生が、田舎で一人で絵を描いてる従妹のはぐちゃんを連れてくるのですが、彼女を見た竹山君が一目ぼれします。「人が恋に落ちる瞬間を 初めて見てしまった」と、真山が呟き、そこから彼らの物語がはじまります。

最初のうちは、ひそやかな恋があり、それよりも同世代の彼らが一生懸命いきてる姿が可愛らしくておかしくて、笑いあり笑いありで楽しく進んでいきますが、次第に、いろいろな歪みが飽和していきます。このあたりの人間がもってる業や痛みもきちんと丁寧に描いているので、嫌な印象なく読めるのですが、結構な毒です。山田さんの刷り込み、きちんと終わりにしない真山のずるさ・・・そういうところをきちんと描かれているのが羽海野先生の愛ですかね、

その中で、自分探しに出た竹本君は自分なりの答えを見つけて落ち着いたかのように見えるのですが、山田さんの恋は野宮という大人の男の登場で佳境に入り・・・そして、はぐちゃんを襲う突然の悲劇で、この甘くて居心地のよい大学生活に一つの答えが出されます。いつかは、区切りをつけなきゃいけないんですよね。

いっぱい温かい思いと笑いをくれた本作。いつまでも心のベスト10の作品に残りそうな気がしています。