彼女になる日/小椋アカネ(全4巻)
この漫画の概要・オススメポイント
幼馴染でライバルの間宮が『羽化』と呼ばれる性転換現象で、女になってしまい戸惑う主人公の三芳・・・この2人を中心に描かれる異色作です。性転換モノで多いのは、男が女になっちゃってちょっとエッチなラブコメ・・・といった作品だったりしますが、本作はそうではなく、見た目は可愛い女性だけど中身は男性のまま・・・そんな元男と、幼馴染の二人の揺れる心の機微が描かれています(肉体の中身は男同士の二人ですので、BLに強い苦手意識がある人には、本作は難しいかもしれません)。
互いに大事な友情を抱きつつ、入れ物が変わった幼馴染との関係性は一言で片づけられるようなものではなく・・・。男であること、女であること、人としての好意や情、肉体のしがらみ・・・読んでいると、頭のなかがぐるんぐるんしてくる不思議な作品ですが、他にはない独特の世界観をもつ感慨深い作品だと思います。
私的感想
本当に、不思議な作品でした。
異性愛者にとって、相手の心も、その器も異性のものなのは当たり前のことだったりしますが、この作品ではその前提が崩れています。絵としては男と女の関係ですが、物語は男と男の関係で、戸惑いの連続でした。
物語のなかで描かれる『羽化』と呼ばれる現象は、生物が男女比を整えようとして発生する現象です。今まで男だった間宮が急に女として扱われたり、元々は男だった女への偏見が拭えない世界が描かれています。一方で、小学生の頃のトラウマが原因で女性に苦手意識をもつ主人公の三芳・・・
その二人が互いを思い合いながらも、自分たちの性に対する葛藤を見てるうちに、性とは何か、人を好きになるということはどういうことなのか、ということを嫌でも考えさせられてしまいます。ホルモンの影響で、自分の思い通りにならない間宮の姿なんて、体が恋をさせるのかもな・・・と思わずにいられませんでしたもの。
肉体が男だから心は男、肉体が女だから心は女・・・そんな簡単な世界にいる人ばかりじゃない。そういう人間の複雑な機微にしっかり寄り添っている深いい作品です。
ネット上の感想を見てると、本作は『合法BL』と呼ばれたりしているようです。確かに、精神的なBLといえるかもしれません。ですが・・・ひとつのジャンルに当てはめらるような簡単な物語では無いことは確かです。この不思議な世界観、一度手にとってほしいと思う、そう思える作品です。
若干のネタバレ
主人公の三芳は、小学生時代のトラウマで女性が苦手。
一方の間宮も、子をおいて出て行った母親を許せず、女性不信が拭えない。
そんな男友達二人が、男女の関係になってしまう。男と男の時は、何も悩むことなく・・・お互い切磋琢磨できるいい友情だったのに、一方が女になってしまっただけで二人の関係性に名前を付けることができなくなってしまう。性が変わることで見た目は変わっても、その人の存在は変わるもんじゃない・・・。でも、今までと同じ関係性ではいられない。入れ物が変わり、二人の関係は距離感を見失います。
今までの友情と明らかに違う点を挙げるとすれば・・・独占欲。間宮への気持ちが独占欲からくる嫉妬なんじゃないかと三芳が悩む場面が何度かあります。どうして、独占したいのだろう。どうして、他の人に触れさせたくないんだろう。男同士の時はそんなこと考えたことも無かったのに、男と女の肉体になって、今まで味わったことのない感情が生まれ、戸惑う二人。これらの感情は、心の入れ物が変わっただけで芽生えるものなのだろうか、と、答えの出ない難問を読み手に問いかけてきます。
その答えを端的な言葉で片付けるのは至難だと思います。ただ、絵や物語を通じて、彼らの姿勢に描かれているように思います。
二人の関係は迷い悩み続けながらも、その根底に相手を真摯に思う気持ちで溢れています。普通の男女の恋愛とはまた違った切なさ、純粋さがいたるところに散りばめられた本作の空気感は、他の作品ではなかなか感じることのできないものでした。
読み手を問うかもしれませんが、出会ってよかったと思える作品でした。